にっぽん伝設紀行

青森県平川市 国指定名勝 盛美園[盛美館] facebook

歴史ある日本庭園に調和をみせる佇まい。西洋文化に出合った明治期の人々の創意と宮大工の「誇り」が生んだ和洋折衷様式美に文明開化の面影をみる。数寄屋造りの書院や濡れ縁から庭を望みしっとりとした静寂に包まれる。

羽織袴に山高帽のように調和のとれた折衷美

青森県津軽地方、米とりんごが主な生産物となっている平川市尾上地域は、知る人ぞ知る造園の町でもある。そんな造園の町にある盛美園は、鎌倉期から続く旧家、清藤家の24代盛美(もりよし)が明治35年(1902年)から9年の歳月をかけて、小幡亭樹に作庭させた池泉枯山水廻遊式庭園だ。明治時代の作庭の中でも、京都の無鄰菴、清風荘と共に日本三名園の一つに数えられている。「借りぐらしのアリエッティ」(※注1)の世界観やイメージの参考になったという話でも有名だ。庭園の南西に建つ盛美館(清藤辮吉氏別邸)は、庭園を眺めるため明治42年(1908年)に建てられた和洋折衷様式の建物だ。1階と2階で意匠が全く異なっており、庭園を見渡せるように東と北の2方向に縁側を廻した純和風の1階に対し、2階は庭園を見渡せる東北角に八角形にドーム屋根の塔屋を突き出した形で配置され、洋風に仕上げられている。設計・施工は、地元の宮大工である、西谷市助が4年の歳月をかけて行った。

名庭を眺める為の別宅贅を凝らした書院作り

この時代の西洋館の魅力は、地方の宮大工・棟梁の技術が随所に散りばめられていることだ。中でも「洋風」として括られた、さまざまな異国の様式から意匠を取り出し、組み合わせて採用しつつ、壁や骨組みにおける構造は元来の技法を用いる擬洋風建築は、文明開花の象徴ともされた。盛美館は、究極の和洋折衷、擬洋風建築とも言われている。1階は、囲炉裏のある居間、床脇、床、書院の三つを備えた客間、きづの間に浴室と厠からなる純和風の数奇屋造り。客間は、黒檀など銘木をふんだんに使用した書院造りで、壁には、扇の形に抜いた狆潜(ちんくぐり)と透かしがあり、細やかな意匠は芯を通して固定されている。透かしは、床脇側からは壁を抜いた形だが、床側から見ると額のような意匠が施されている。また、書院窓の障子の桟は蜘蛛の巣模様で、純和風の中にモダンな雰囲気を醸し出している。縁側と部屋を仕切る障子には、曇りガラスを丸く抜いた窓がはめ込められ、庭を絵画のように切り取って望むことができる。もちろん開放できるので、正客を招くことを想定した部屋として、格式と庭の眺望を重視した意図もうかがえる。他にも、厠の妻壁には松葉を象った障子窓が開けられていたり、湯気抜きが施された浴室など、随所に見所がある。

日本の良さを残すという棟梁たちの心意気。

漆喰の白壁に、展望室のドーム屋根、尖塔、アクロテリオンの棟飾りなどルネサンス調を漂わせる2階部分は、窓の額縁飾りもしっかりと作られ、グリルの円形部分に清藤家の家紋を配している。屋根は銅板葺きで、ドームや胸壁、フィニアルに見られる精巧な銅板の繋ぎ目が見事。内装でも優れた左官技術がうかがえる。漆喰はどんな形でも作れるため明治時代、西洋装の彫刻の材料として盛んに使われており、西洋では型に流し込む、彫刻するという方法で造られる造形を漆喰で盛りつけていくことで表現しているのが特徴的だ。例えば、主人室のシャンデリアのセンターピースや天井周りの蛇腹、婦人室床の間の柱頭部分の装飾などは細密な漆喰彫刻によるもので、主人室書院窓下部の巾木や婦人室の床柱は漆喰で大理石を表現している。しっとりとした艶を出すため、漆喰を塗りこめ模様を彩色した後、乾く間に何度もコテや素手で磨き上げている。同じ敷地内に和風建築と西洋館を並べ、廊下で繋いだものは、よく見られるが、盛美館のように、和風と洋風が上下に重なる建物は珍しく、日本では他に例がないといわれている。

(※注1)
『借りぐらしのアリエッティ』は、2010年の日本のアニメ映画である。メアリー・ノートンのファンタジー小説『床下の小人たち』が原作となっている。元々は、約40年前にアニメーション監督の宮崎駿と高畑勲によって考えられた企画であり、2008年初夏になって宮崎駿によって改めて企画された。当初は『小さなアリエッティ』という題であった。本作に登場する和洋折衷の屋敷や庭園は、2008年にスタジオジブリの社員旅行で訪問した青森県平川市の盛美園がモデルとなった。宮崎駿によれば屋敷の所在地は東京都小金井市の辺りという設定である。


国指定名勝 盛美園[盛美館]
●住 所/青森県平川市猿賀石林1
●交 通/JR弘前駅から弘南鉄道津軽尾上駅まで20分、津軽尾上駅より徒歩10分。
東北自動車道黒石ICより10分
●時 間/9:00~17:00(季節時間あり)
●入館料/大人400円、中・高校生250円、小人150円
※12月~4月10日は半額
●休館日/年末年始
●詳しいお問い合わせは/TEL.0172-57-2020
ホームページ http://www.seibien.jp

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